【スマホ時代の音楽マーケティング】株式会社Donutsが仕掛ける『Tokyo 7th シスターズ』【前編】
2015/08/03
by Takashi Watanabe
【スマホ時代の音楽マーケティング】配信開始から僅か12時間で、iTunes 総合アルバムチャート1位!株式会社Donutsが仕掛ける『Tokyo 7th シスターズ』
激変する音楽業界における、新しいマーケティング手法にスポットライトを当てる本連載『スマホ時代の音楽マーティング』。第2回は、株式会社Donutsさんへのインタビューです。
リアルタイム暴走族バトルゲーム『単車の虎』、月間5億再生を誇る10秒動画コミュニティ『MixChannel』、女性向けハウツーサイト『ハウコレ』などの大ヒットサービスを次々と生み出している株式会社Donuts。
そのDonutsが手がける、スマートフォン向けアイドル育成リズム&アドベンチャーゲーム『Tokyo 7th シスターズ』(通称:ナナシス)は、スマホ向けゲームという枠を超え、ストーリーと世界観を愛してやまない、熱狂的なユーザーを生み出しています。
4月23日には、ゲーム内で使用されていた楽曲を収録したTokyo 7th シスターズ1st Mini Album「t7s Re:Longing for summer」をiTunesより配信スタート。なんと配信開始後、僅か12時間でiTunes総合アルバムチャート1位を獲得しました。
元々は2014年冬に東京ビッグサイトで開催された『コミックマーケット87』で限定CDを販売し、即完売となったアルバム『t7s Longing for summer』を、タイトルあらたにデジタル配信を行った今作。
スマホ向けゲームアプリ内でユーザーに愛されていた音楽たちが、スマホから、ゲームから飛び出して、それを待ち焦がれていた多くのファンの元に届き始める。スマホゲームから発信され、デジタル配信開始後12時間でチャート1位。これぞまさに『スマホ時代の音楽マーケティング』の好例ではないでしょうか。
本インタビューでは、そんな驚異の盛り上がりをみせる『ナナシス』について、中川尚人プロデューサーにその音楽たちが愛される理由を伺いました。
ーー本日はどうぞ宜しくお願いします。Tokyo 7th シスターズ(以下、ナナシス)ですが、iTunesでのアルバムチャート1位獲得、Zepp Tokyoでライブ開催と、凄まじい勢いで快進撃を続けられていますね。
Tokyo 7th シスターズ
株式会社Donutsが運営する、スマートフォン向けの次世代アイドル育成リズム&アドベンチャーゲーム。2014年よりサービス提供開始。超有名ボカロP『kz(livetune)』『ヒゲドライバー』らが楽曲提供していることで、音楽業界からも注目を集めている。
ありがとうございます。5月31日に『Tokyo 7th シスターズ 1st Anniversary Live 15'→34' ~H-A-J-I-M-A-L-I-V-E-!!~』(ゲーム内のアイドルを演じる声優たちが出演)をZepp Tokyoで行ったのですが、有難いことに満員御礼でした。チケットの競争率が激しすぎて、お越しいただけなかったお客さまには申し訳なかったです。
最初に『1st Live、Zepp Tokyoです』とお伝えしたときは、『そんな大きいところで大丈夫なの?』と各所から心配されていたのですが、最終的に『小さいよ!』『チケット足りないよ!』って怒られてしまいました(苦笑)。イベントも大盛況に終わり、ライブ中の大きな事故も起きず、本当に良かったです。
ーーはじめてのLiveが 『Zepp Tokyo』というのも驚異的です。さっそく本題ですが『ナナシス』の音楽たちが、ゲームという枠を飛び越えて、CDパッケージとして欲しい、デジタル配信でダウンロードしたいと、ライブ会場で聴きたいとファンの方々に思ってもらう、そこまでエンゲージメントを高めたポイントはどこにあるのでしょうか?
単純に『良いものをつくった』ということが、最も大きいと思います。ゲームとしてのクオリティも、音楽としてのクオリティも。開発当初から単なるソーシャルゲームをつくるのではなく、『コンテンツ(IP)』として良いものをつくるという意識を総監督の茂木が持ち続けて進めてきて、今でもチーム全体がその意思を持っているというのがあります。
ゲームのストーリーとして良いものがあって、それを演出する音楽もそのストーリーに寄り添うもので、個性的なアイドルたちがいて、と。そして、どこか単体のパーツだけではなく、コンテンツ全体として、ユーザーの皆さんに好きになってもらえたことが一番大きいですね。
また、そのコンテンツの良さを伝える方法の1つとして、『ナナシス』をローンチしてから10ヶ月以上、ひたすら無課金で提供し続けてきました。フリーミアムどころか、完全に『無料』です。良いコンテンツだからこそ、より多くの人に触れてもらうために無料で伝えるということを、この期間に学びました。それがうまく活かされた印象はあります。チームとしては“目の前の”売上を考えて運営することができないという環境でしたね。
ーーユーザーがコンテンツ自体を好きになった後、最終的に楽曲を『購入したい』『対価を支払っても良い』と背中を押されるポイントはどこなのでしょうか?たとえば、無料期間を比較的長く設けていた分、有料課金に抵抗のあるユーザーもいるのでは?と思ってしまったのですが。
1つは単純に、ゲーム内でフル尺の音源は聴くことが出来ないという点です。だけどそれは、何も真新しいことではなくて。
たとえば、テレビCMやドラマでもいいです。ものすごく良いストーリーや世界観があって、それに寄り添う素晴らしい音楽がある。そういうコンテンツに触れて『いいな』と思った時、そのテレビCMやドラマだけで音楽を聴いて満足する人って、きっと少ないはず。もっと言うなら、ミュージックビデオで映像付きでフル尺を聴いて、もっとその音楽が欲しくなる人もたくさんいますよね。少なくとも僕はそうです。
だから、最終的にユーザーさんに『購入したい』『対価を支払っても良い』と思ってもらえるポイントは、『良いコンテンツに触れたので、フル尺で聴きたい。実際に欲しい。』という点において、従来あるものと何ら変わらなくて自然なんです。違うのは、そのコミュニケーションが起きているのが、ゲームアプリの中ってことですよね。
ーーなるほど。今回『ナナシス』で起きている現象は、楽曲タイアップのあたらしい形とも感じていて。今まで地上波で行われていた『良いストーリーと映像と、それを演出する素晴らしい音楽』という構造、観ている側・聴いている側が心打たれる構造が、音楽ゲームアプリの中で起きている。
そうですよね。我々だけに限った話ではなく、いわゆる『音ゲー』と呼ばれるゲームアプリの中で一線を画すコンテンツ、『ラブライブ!』さんや『THE IDOLM@STER』さんなどは、そういった構図をものすごくうまく創られています。
ゲームと音楽って、すごく近いところにあると思うんです。僕も個人的にゲーム音楽をよく聴くのですが、子供の頃からファイナルファンタジーの音楽がすごく好きで。昔のゲーム音楽が好きな人って、僕の世代の周りにはすごく多くて。それはきっと、当時の体験と音楽が結びついているから。しかも、そこに(ゲーム内の)物語があるからだと思うんですよね。
そこに物語がある表現の仕方は、やっぱり強い。しかも、ゲームの場合はコミュニケーションが双方向なんです。アニメは、発信側から与えられるものに近い。ゲームも同じく、与えられるものではあるのですが、自分でプレイしなければならない。ゲームに自分の言うことをきかせなければならない状況が、少なからずある。
完全に余談なのですが、アナログシンセサイザー。あれを子どもたちにさわらせると喜ぶんですよ(笑)。つまみを回したら、例えば、フィルターがかかって音が変わる。
昔、一緒に仕事をしていた音楽家さんに、“シンセサイザーに自分の言うことをきかせることができるからかもね。普段ああしなさい、こうしなさい、宿題やりなさい、勉強しなさいと言われている子どもたちが、解放されるんじゃないか”、みたいなことを言われたのを覚えています。しかもその解放を『音』や『音楽』として自分の体験として実感できる。
そういうシンプルなことを思うと、あらためて音楽の力って強いなと思います。人のプリミティブな感情に訴えかけることができるし、潜在意識に刷り込まれているのだと思います。
次回、後編の公開は8/5(水)予定です。
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