“アジアにおける音楽ライブとシンク"2016年ATM 前編
2016/09/29
by Iichiro Noda
アジア最大規模のエンタメカンファレンス、AllThatMatters(以下ATM) の貴重な講演をインディペンデントアーティスト目線でまとめてみました。今後、必ずや主戦場となるアジアの音楽市場の今を少しでもお伝え出来ればという思いを、前後編でお届けしたいと思います。前篇はライブ、動画、シンクロライセンス(動画内の音楽利用の権利)などのセッションまとめ、後編はアジアにおける音楽ストリーミングのまとめです。メディアとして事実だけを伝えるという類のものではなく、あくまでカンファレンスレポート的なブログであることを予めご了承ください。
ATMを主催する、Youtube Fan Fesをはじめアジア全域で様々なイベントを行っている会社、Branded代表のJasper氏の挨拶では、今年からマーケティングのセッションが新設され、メーカーや広告業界からスピーカー講演が追加されたことや、スピーカー自体も一新され70%くらいは初登壇の方であるとの説明がありました。まさに急激に変化するアジアの「旬のプレイヤー」たちが紹介されました。
まずは、ATMに初登壇となるソニー・ミュージックアジアの代表を務める"Denise Handin氏”の基調講演。"各新デバイスの登場で、音楽業界を壊すと言われたがそんな事はない”や"Thanks to the internet We are not changing direction, we are directing the change”といった彼のメッセージを裏付けるように、定額制の音楽ストリーミングとアドストリーミングからの収益データ(IFPIから)の増加を説明し、ダウンロードの収益が下降するなか、産業全体は成長しており、さらに今後増加が見込まれるという話からセッションが始まっていきました。
◆ライブ関連
Live Nation Entertainment:Arthur Fogel氏(基調講演)
やはり各国で大きなイベントを行う事は、現場のプロ人材の確保、機材の運搬(基本空輸)、そして経済面とすべてにおいて難易度が高い。そこをローカライズしながら、地道にやってきた事が現在の成功になっているとのこと。マネージメント事業であるArtist nationについて聞かれ、マドンナは2001年まででWorld Tourを2回しかやっていないが(やる必要がなかった?)、その後14年で5回もWorld Tourを行っているという事を話していました。まさに、ライブ中心のマネージメントが出来る強みと言ったところです。
次世代アーティストへの提言としては、「残念なのは、若いアーティストが自分の曲を弾いている”だけ”」ということ。他の手段があるなかで、それだけでは足りずSHOWとして成立させる必要があるのではないかと言っていました。この”SHOW"という言葉を頻繁に使っているのが印象的でした。これはインディペンデントアーティストのライブに頻繁に行くので我々も思う事でもあるのですが、ライブをする際にちょっとした演出の心がけや、お金をかけられないなりに想像力を発揮した演出をし、目の肥えた昨今のユーザーをSHOWに引込むという意識が重要なのかもしれません。
アーティストとの本来のパートナーシップとは、"その日アーティストが満足したか”させる事が出来たかでしかない。それを実行してきた事が、Lady Gaga、U2、マドンナなどの超大物アーティストから信頼を得てきている理由なんだと実感しました。
Amuse:Miyano Hruhiko氏
時間が短かったのが残念でしたが、Japan to the Worldと題してBaby Metalの紹介動画からはじまり、8万人のアニメフェスの話、日本アーティストONE OK ROCK、SEKAI NO OWARIなどの海外展開事例について語られておりました。またAmuseがシンガポールに新設したMilian(今回のオフィシャルライブ会場でもあった)というライブ会場の話になりました。あまり知られていないのですが、これは誇らしいです!さすがです!ここで是非、日本のアーティストもバンバン、ライブしてほしいものです。今年は残念ながら、オーストラリア、タイ、香港、インドネシア、シンガポールなどのアーティストでしたが。。。
◆動画、シンクロ
MTV:Paras Sharma氏
各アジア地域で伸びているとのことで、戦略としては自ら作ったコンテンツはシェアする。これはNetflixやamazonなどVODのオリジナル作品とは逆の発想です。取組としては、MTV Breaks、MTV Push、MTV spotlight=アジアのローカルをプッシュし、ローカルアーティストを世界へを目標としている。質問では、インディペンデントアーティストはどうしたら、具体的にどのようにプッシュしてもらえるか?に対して、3つのステージを用意しており協力可能だが、最初のステージを突破するのが一番大変かつ、大切。その審査基準は、音楽はもちろんですが、SNSなどのFAN数や関係値の濃さを大いにみるとのことでした。
stage 1 デジタル世界 支援
stage 2 TVプログラムに参加支援
stage 3 世界へ、unplugged などの特集支援
Format Entertainment:Dave Jordan氏
数々の有名映画(キリがない)のMusic Supervisorをしている、個人的にはStraight Outta ComptonやTransformerもそうなんだっ!と驚きました。 日本ではあまり聞かない"Music Supervisor"ですが、Music 映画に利用される全ての音を監督などと決め、権利を含めてクリアーにする人の事のようです。著名な映画監督(もちろん全てではない)の方でも、意外に音楽までのクリアーなビジョンは持っておらず、"ミドリな感じ"とかの抽象的なオーダーが多い。ストーリーや映像に最適な音を選択するのが勿論重要ではあるが、予算内で交渉し、権利までを処理するのこそが大変とのことです。そもそもこんな形で音に携わる仕事があるなどは勉強になりました。昨今の雰囲気や気分などのプレレイリスターのスキル✕ビジネス力が必要なBtoB版サービスと言ったところでしょうか。
Netflix:Andy Lykens氏
現在精力的にオリジナル動画作品を世に出しているNetflixですが、音楽に関してはまだまだラインセンスものが多いとのことでした。ちなみに、最近日本でも話題になっている"The GETDOWN"では2曲ほどNASによるオリジナル曲を利用しているとのことで、今後はこういった事も積極的に行っていきそうです。また音楽がNetfilix動画に利用される最適な方法は、トレイラーハウスやクリエイティブエージェンシーと仲良くなること(笑)と言っていました。※トレイラーハウスというのは、映画の紹介動画(トレイラー)を専門に作る製作会社。海外ではこれでもか!というくらいのプロによる分業ぶりに驚くばかりです。
A discussion of the Japanese Market
日本の音楽市場のセッションでは、レコード協会(Furuichi氏)、ソニーパブリッシング(Mikami氏)、ユニバーサルミュージック(Suzuki氏)、ビクター(Ohi氏)のスピーカーの方々が参加し、ほぼ満席状態でのセッションとなっておりました。日本がいかにユニークな市場かというデータから、CD売上のシェアーの高さ、シンクの売上比率の低さ、映像での利用は基本プロモーション利用のため収益化しずらいなどの特徴を説明。また楽曲の紹介では坂本九(過去海外成功事例)→布袋(キル・ビル)→GLIMSPANKY(女性のパワー)→babymeta(独自文化)→Seiho(SXSW事例)と紹介し、日本の楽曲もどしどしと利用してもらえればとアピール。
各国の人と話して感じたのは、日本はアジアの国々からすると、やはり一目置かれている存在だということです。これは諸先輩方の素晴らしい功績のおかげだと体感できますが、具体的に今の話をすると、最近日本アーティストのライブや動画作品をあまり見なくなった、聴かないという声も数多く、点のアーティストではなく面のアーティストでアジア認知向上も重要じゃないかと再確認できました。
また、全体的に”シンク"なしは"シンクロ権"という単語自体があまり使われない日本の音楽市場ですので、(理由はここでは割愛しますがOE Tatsuya氏 a.k.a Captian Funkがココでまとめてくれていますので参考まで)こういったセッションが多く設定されている事自体が新鮮でした。どう音楽を映画、TV番組、ネット動画などの映像に利用(シンクロ)させるか?ということで動画もまた、やはり大きなトピックでした。これは音楽コンテンツをマネタイズする一つの手法であるとともに、デジタルコンテンツの宿命でもある価値の低下という、問題につながる重要なことだと感じました。ストリーミングの定額制とアドストリーミングの問題とは別の解がこの”シンク"という事なのかもしれませんが、これまた独自なシンクロ環境の日本でどう展開され、エコシステムが形勢されていくか。。。
余談ですが、映像✕音がシンク市場だとすると、VRやAR✕音の利用といったトピックは今回はまだなかったので、来年以降は新たな"シンク市場“として話されるかもしれないなと思いました。
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