Spotifyを使って大成功を収めた独立系シンガーソングライター「ロン・ポープ(Ron Pope)」(前半)

2014/08/25
by Staff

 今年3月、ニューヨーク・ブルックリンの米国TuneCoreオフィスにてRonのマネージャーと話をする機会に恵まれた。日本ではSpotifyの上陸も未だ発表されておらず、ストリーミング・サービスが一般に利用されるのはまだまだこれからだ、という話をしていたところ、そんな日本の音楽産業の今後についてRon自身が興味を示し、この記事のインタビューが実現する次第となった。

 

Ron Pope

 

 インターネットやテクノロジーの進化が音楽産業に大きな変化をもたらしたことは、もはや語るまでもない。ディストリビューターである我々TUNECORE Japanは誰もが気軽に世界中のオンラインストアに楽曲配信できる環境を整え、また音楽ストリーミングサービスのSpotifyは音楽を愛する誰もがPCやスマートフォンから世界中のコンテンツにアクセスできる仕組みを構築した。こうした革新的なサービスは従来の音楽産業のルールを書き換え、それによって海外ではまったく新しい方法で成功した事例を次々に生み出している。そんなアーティストの1人が今回ご紹介するロン・ポープ(Ron Pope)である。
 

 
 ロンはアメリカ・アトランタ出身。期待の若手シンガーソングライターであり、プロデューサーやレーベル運営も兼任している彼は、Spotifyを活用することで一躍有名になったアーティストとして話題を呼んでいる。メジャーレーベルとの契約を解消する少し前の2008年にロンはチューンコア(US)から楽曲配信を開始。それ以来、ストリーミング再生では3年間で5700万再生を記録し、本人が打ち明けた収益はなんと33万ドル(=約3300万円)、2013年だけでも20万ドル(=2000万円)を売り上げる偉業を成し遂げた。
 
 これとは別に、iTunesなどのダウンロード型のストアでの売上げもかなり伸びており、Spotifyでの人気と比例している。ストリーミング型の定額制サービスに入会しているユーザーと、iTunesなどのダウンロード型のストアを利用しているユーザーは、普通に考えれば別人であるため、当たり前の結果といえば結果なのだが、日本ではストリーミングか、ダウンロードか?という極端な議論ばかりが先行している。双方に良い結果を出すという良い事例がロンのケースではないだろうか。
 
 また、有名になった影響はオンラインに留まらず、昨年スウェーデンのブラバラ・フェスティバルに堂々出演するなどライブパフォーマンスも注目を浴び、ツアーではどの会場もソールドアウトの状態が続いている。自らを束縛していたレーベルから独立することで目覚ましい成功を収めた彼は、一体どのように活動を始め、いまの音楽産業の中にどのような使命を見出しているのだろうか。
 
 

 
 

 まずはおおまかな質問から始めましょう。音楽をはじめたきっかけはなんですか?

 

 僕はいつでも音楽に触れてた。7歳の頃は学校の合唱部で一番前に立ってるような面倒なやつだったけど、大学に行くまでは自分がプロのミュージシャンになれるかどうかってことはそんなに気にしてなかったんだ。ニューヨーク大学で作曲のサークルに入って、そこで周りの人たちに背中を押されてプロの道を決めたよ。

 

 一度はメジャーレーベルと契約して、今は独立して活動していますよね。それぞれの経験を少し教えてください。

 

 メジャーレーベルでの経験はほとんど例外なく酷かったから、それについてあまり話すことはないかな。大きなレーベルは人々に対してすごいことができるのは間違いないけど、僕が契約したときはなんの助けもなかった。契約したところで得られるのは大手メディアとのコネぐらいで、そこに必要性が見出だせなかったから契約解消を頼んだんだ。独立して活動するメリットは自分とファンとの間に遮るものがなくなることだね。もしファンが新しいアルバムやツアーを望んでいたら、それが僕のすべきことさ。売り上げを横取りして「次はこうしろ」って命令するようなエラい奴はいない。何をするにも許可がいらない自由な環境がイケてると思ったんだ。

 

 

アーティストが成功するにはどんなチームが必要だと思いますか? あなたのチームは時間とともに成長しましたか?

 

 それはどんなアーティストかによると思う。駆け出しの人たちにはいつも言ってることだけど、近頃の音楽業界では助けを求める前に自分の手でなにか価値のある物を創り上げることがすごく重要なんだ。マネージャーを探したり、取引したり、広報を雇ったり・・・そんなことをする前にまず自分自身で話題を生み出す必要があるわけ。うん、僕のチームはビジネスの変化に対応するために間違いなく成長したと思うよ。

 

 

現況の音楽産業モデルの中で、独立系のアーティストはどんな立場にあると思いますか?

 

 今のところ、音楽業界の中では新生の中流階級の一部じゃないかな。20年前は「持つもの」と「持たざるもの」が存在したよね。有名スタジオでレコーディングしたり、プロデューサーを獲得したり、作品を世界中へ流通させたり、アルバム制作やライブツアーをやったり、それから大手メディアとの提携を可能にする莫大な資金を持ったメジャーレーベルと契約するか、それら全てを得るための交渉に奔走するか、その2種類だった。音楽業界の中で僕がいる場所はすごく新しいって感じるよ。時間が経つにつれて、旧来の”音楽業界マシーン”の干渉なく、自分たちだけで新しい風を起こすことができるアーティストが増えていくんじゃないかな。

 

 

 では、Spotifyでヒットした要因はなんだと思いますか? 宣伝活動などはしましたか?

 

 僕の音楽は草の根で広がっていったんだ。僕の音楽を楽しんだファンがアクティブに友達に教えていったんだと思う。そういう素敵なファンを持てたことがとても幸運だよ。Spotifyみたいなプラットフォームのおかげで、ファンが誰かに曲を紹介したとき、その人が曲を気に入れば二人はもっとたくさんの音楽を聴くことができる環境ができてる。アルバムをたくさん持ってる僕みたいなアーティストにはとてもうまく機能してるんだ。お金をかけなくてもアーティストの全てのカタログにアクセスできるから、ただお気に入りの1曲だけじゃなく、アーティスト自身のファンが生まれる。それがSpotifyってプラットフォームの魔法じゃないかな。

 

 

Spotifyでの成功はiTunesや他のストアに影響を与えましたか?

 

 Spotifyでの成功で一番変わったと気づいたことはチケットの売上だね。Spotifyが人気の国でライブすることがこの数年で急激に増えたんだ。今までスウェーデンでは一度もライブすることがなかったのに、今では最低2回は向こうの大きなステージで演奏させてもらってるよ。

 

 

 なるほど。では音楽産業はどこへ向かっていると思いますか?

 

 それがわかるほど頭が良かったら音楽産業で仕事してないね(笑)。でも真面目に、音楽産業が変わりつつあるってことだけは確実に言える。いわゆる流動期にあるんだよ。だから音楽産業の未来は「変化」だ。変化する準備ができてる企業とアーティストが生き残って、それ以外は消えるだろうね。

 

 


 
 後半へ続きます。次回はロンの音楽活動においてチューンコアがどんな風に役立っているか、海外でライブをするときの心構え、ロンから見た日本の音楽市場について、そして独立系アーティストに向けた熱いメッセージをお伝えします!(後半の記事はこちら!
 
 
 

■Writer: Kanki Suzuki

 

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